婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「フローラ嬢にテンネル家の次男ですって自己紹介なんてできると思う? 婚約破棄した相手の身内だよ。僕はとてもじゃないけどできないよ。そこまで厚顔無恥ではないしね」

 諭すような物言いにわたくしは詰めていた息を吐きだした。

「そうね。無理な話ね」

 確かにスティールの言うこともわかる。

 エドガーがダメだったから、それならばスティールでと考えてしまったけれど……この子だったらうまくいくような気はしたのよ。

 お互いに気が合えば新しく縁を結べるのではないかという思いもあったから、半ば強引に帰国をさせた。
 もちろん、次期当主としての自覚を促すためでもあったのだけれど。

「フローラ嬢はいつもマクレーン伯爵令嬢をはじめ数人の令嬢方に囲まれているし、誰から声をかけられても、にこやかに話に応じてくれるから、親しみやすくてとても謙虚な方だと言われているんだ。マクレーン伯爵令嬢とフローラ嬢は学園においては尊敬と羨望を集めている別格の存在なんだとクラスメートが教えてくれたよ」

「そう……なのね」

 大人の強かな狡賢さは子供には通じないのか、意図して気づかないふりをしているのか、他人事のように淡々と告げるスティール。
 
「それに、婚約解消した時に僕のことが俎上にのらなかったということは、ブルーバーグ侯爵家はテンネル侯爵家を必要と見做さなかったってことだよね」
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