婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「……」

 絶句。わたくしは二の句が継げなかった。
 ストレートに言いすぎだわ。頭の片隅ではわかっていても、蓋をして考えないようにしていたのに。
 
 権勢を誇る二大侯爵家。

 この二家がなければ国はもたないと言われるほどに国全体に様々な影響を与えている。そしてブルーバーグ侯爵家との婚姻関係は、さらに国の発展に寄与するだろうということで他の貴族達からも概ね歓迎されていた。
 
 今回の婚約解消で表立って非難はないものの、これから影響がないとも言い切れない。多くの事業を手掛けているおかげで仕事関係だけでも貴族達とのつながりも深い。おいそれと離れて行くことはないだろうけれど、それでも不安は拭えないのだ。

 婚約解消時に一旦保留にしてもらった後でスティールのことをお願いしたけれど、契約には含まれていないと一蹴されてしまった。

 それに、ブルーバーグ侯爵家が事業を一斉に引き上げたせいで、人材不足と工事の見直しを余儀なくされて開発が頓挫している。

 テンネル侯爵家を必要としない。そうかもしれない。

 何の未練もなく惜しがることもなく、引き際はあっさりと素早くすべてが白紙に戻っていた。残ったのはすでに作り上げたものだけ。

 これから積み上げていくものが多すぎて頭が痛くなるわ。
 わたくしが先の見えない事業に頭を悩ませていると、スティールの声がした。
 
「母上、この際だから言っておくけど、僕はテンネル家を継ぐ気はないからね」

「えっ?」

 今、何を言ったの? 聞き違いかしら?
 信じられない言葉を聞いたような気がして、わたくしは思わずスティールを凝視した。
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