婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「僕、そんなこと言ってたっけ?」

 あごに手を当てて記憶をたどっているのか黙り込んだスティール。

「将来のことを考えて留学をするというのは聞いたわ」

 隣国の最難関の学院を受験したいという理由がそれだった。
 だから、てっきりうちの事業のためだと思っていた。

 隣国の学院は外国の留学生も多いし、成績が優秀であれば平民も通うことができる。成績争いは熾烈だと聞くし品行方正であることも求められる。
 たとえ王族でも両方伴わなければ、容赦なく落とされる厳しいところだと聞いていた。
 その厳格さゆえに、学院を卒業したとなれば就職先に困ることはないという。

 スティールはそんな中にあってとても成績優秀だと聞いていたし、人脈も含めて将来は家の事業に大いに役立つだろうと思っていたのだ。

「言ってなかったかなあ? その将来が、独立することだったんだけど」

「聞いてないわ」

 わたくしはかぶりを振って答える。

 スティールの将来は独立すること。
 夫婦が考えていた将来が事業を手伝うこと。

 全然違うのではないの? お互いかみ合っていない。
 今まで全然別の方向を向いていたってことよね。

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