婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

ブルーバーグ侯爵夫人side④

 かぐわしい薫香があたりに漂い鼻腔をくすぐる。
 テーブルの上にはカップが二つ。中には見慣れない黒い液体が入っている。
 コーヒーという名の飲料である。

 初めて見た時は、とても飲み物には見えなくて躊躇してしまった。勧められておそるおそる飲んでみたら、とても苦くて顔をしかめてしまったわ。

 でも、慣れてしまえばこの苦みも美味しさの一つだとわかってきた。
 最初は渋い顔をしていたローレンツも今では紅茶よりもお気に入りになってしまったわ。

 このコーヒーを紹介したのがチェント男爵家嫡男のジェフリーだった。

 南方の国ではポピュラーな飲み物で紅茶よりもコーヒーが好まれているらしい。コーヒーの栽培も盛んに行われているようで、地方の特産物にもなっているとか。

 世の中って広いのね。
 食文化一つとっても知らないことがたくさんあるわ。
 
「これ、初めは苦くて、本当に飲み物かしらって思ったけれど、慣れると美味しく感じてくるから不思議ね。香りも芳しくて心地よいわ」

 わたくしは独特の香りを楽しんで、コーヒーを味わうように飲むとカップをソーサーに置いた。
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