婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「これを伯母上に渡したいのかい?」

「はい」

 わたしは向かい側に座り返事をした。

「フローラ嬢とテンネル侯爵子息の婚約破棄には、国王陛下たちもびっくりしていたからね。貴族の面々も驚きを隠せないようだったし、しばらくは騒がしいだろうな」

「そうでしょうね。国の宝玉だと国王陛下から言葉を賜り、国外に出すこと相ならんと厳命されるほどの才女を足蹴にして、何のとりえもない男爵令嬢風情に現を抜かし婚約破棄する愚か者がいるなんて、想像もできませんでしたわ」

「価値のわからない愚かな人間だったってことだろうね。これから、いろいろやばそうだとみんなで心配してたところだったんだよ」

「フローラの争奪戦が繰り広げられるということかしら?」

 彼女が才能を見せ始めた頃から縁談は次々と舞い込んできたらしく、そのどれもがフローラが齎す莫大な利益が目的だったのは一目瞭然だったそうで、その争いは熾烈だったと聞いているわ。血で血を洗うような争いに発展しないようにブルーバーグ侯爵家が一計を案じたのよね。
 その一つが多額の研究費を出資すること。この条件を飲めたのはテンネル侯爵家だけだった。

 けれど、バカ息子のせいで泡沫の夢と消えてしまいました。めでたし、めでたしだわ。わたしとしてはね。

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