婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「王妃陛下。リリアはお披露目はしておりませんが、先日私エドガー・テンネルと婚約を結びましたので、本日は正式な婚約者としてこの場に出席させて頂いております。ご招待を頂き誠にありがとうございます」

「それは、おめでとう。テンネル家が認めた婚約者ならば、とても素晴らしいご令嬢なのでしょうね」

「はい。両親も一目で気に入ってくれたようで、すぐに結婚の許しも出ました。いついかなる時も私のことを考えてくれる心優しい婚約者です」

 王妃陛下はにこやかに話を聞いていらっしゃいますが、目は笑っていません。

 エドガー様の誇らしげに胸を張って意気揚々と答える態度と褒められたのが嬉しいのか頬を染めて、エドガー様の服の袖をにぎってもじもじ恥じらうリリア様の姿が痛々しくて……他人事ではありますが、胸がチクチクと痛みます。

 先ほどよりもさらに空気がひんやりとしてきたような……
 会場中がお三方に神経が全集中しているためか、異様な雰囲気にのまれてバーテンダーやメイドも仕事を放棄しています。
 王太子妃殿下は扇子で顔を隠してしまわれました。モルフォ蝶が羽を広げて飛んでるような扇子のデザインが斬新でしばし目を奪われました。

「あら、この指輪は……」

 王妃陛下がリリア様の指に目を止め、ジッと見つめてらっしゃいます。

「これですか? いいでしょう?」

 一段と弾んだ声が聞こえました。
 リリア様が目の前に差し出した指に嵌められていたのは、薔薇を形どった指輪、でした。
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