婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「素晴らしいものをお持ちね。大事になさってね」

「もちろん、大事にします」

 リリア様は満足そうににっこりと笑いました。

「では、ごきげんよう」

 エドガー様とリリア様を一瞥し、その言葉とともに王妃陛下と王太子妃殿下は去って行かれました。

 会場の緊張が一気に解けたように、弛緩した空気が流れます。
 今日の出来事はすぐさま社交界に広まるかもしれません。非常識な侯爵家の嫡男とその婚約者。テンネル侯爵と夫人は大丈夫でしょうか?

 王妃陛下と王太子妃殿下は何事もなかったかのように次の方々と談笑しておられるようです。やっと、会場中が正常な空気に包まれました。

「思ったより、やらかしてくれたわね」

 料理を頬張っていらっしゃるリリア様とエドガー様を横目に見ながら、ディアナがおかしそうに顔を緩めています。

「私、そばに行って助け舟を出そうかと何度も思いました」

「フローラってば、優しいのね。わたしは笑いをかみ殺すのに苦労したわ」

「ディアナ。あの場面は笑うところではないわよ。ずっと、緊張しっぱなしだったわ」

「ローズ様から、ごきげんようと言われたのに、まだ居座る図々しさ。これは、ブラックリストに載ったわね」

 ディアナがニヤリと口の端をあげて、ちょっと意地の悪い顔になります。
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