婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
 声が一段と大きく聞こえてきます。助けを求めているような鳴き声。
 ここから先は庭園外。でも、気になります。そうよね。猫に何事もなければすぐに帰ってくればいいわと自分に言い訳しながら、ちょっとだけごめんなさいと独り言をつぶやきながら一歩足を踏み入れました。

 庭園の先には木々が立ち並び、下生えの草木の緑やひっそりと咲く花の様子が森のよう。華やかな薔薇の世界から、自然あふれる森の世界に入り込んだみたい。

 ミャー。ミャー。ミャー。

 どこかしら? 猫の鳴き声を追って足元を探しながら慎重に中に進んでいくと、いました。木の上に。ちっちゃな猫が枝にしがみついています。
 
 ミャーン。

 登った木からおりられなくなったのでしょう。体を縮こまらせて動けなくなっているようです。大人の猫だったら簡単に降りることができるかもしれませんが、小さい子猫です。恐怖に身がすくんでいるのでしょう。助けてとばかりに私を見ていました。

 かわいそうに、どうにか助けてあげたくて手を伸ばしますが、あと少しのところで手が届きません。
 どうしましょう。

 ミャーン。ミャーン。ミャーン。

 すがるような子猫の鳴き声。助けてあげたい。
 木を観察しながら考えます。枝につかまって登ればなんとかなるかもしれません。
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