婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
 はあ、よかった。やっと、下ろしてもらえるのね。と、喜んだのもつかの間。
 私を抱えたまま歩き出しました。

「下ろしてください」

 ここは毅然とした態度をとらなくてはと思い、彼の顔を見てはっきりと口にしました。改めてしっかりと顔を見て、美しすぎて一瞬、見惚れてしまいました。
 艶を放つバーミリオンの髪、アーモンド形の菫色の瞳、通った鼻筋、弧を描く唇。そのどれもが絶妙な配置でもって形作られていている完璧ともいえる容貌。しかも、どなたかを彷彿とさせるような……

 まさか……ですよね。
 浮かび上がった答えを打ち消すように頭を振りました。最悪な結論に導かれそうで怖いです。これ以上は考えないようにしましょう。知らない方が幸せなこともあります。
  
 アーモンド形の菫色の瞳がゆっくりと細められて、まばゆいばかりの美貌が笑みを作ります。

「うん。下ろしてあげるよ。部屋に帰ったらね。さっ、行こうか」

 

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