婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「まあ、どうされました?」

 五十代くらいの少しふくよかな侍女が部屋に入って私達を見た途端、驚いて目を見開いています。
 そうですよね。驚きますよね。私が一番驚いていると思います。
 
 王宮の西側に位置する建物に、護衛を数人引き連れて入ってきましたが、玄関のエントランスで私達を見るなり一瞬固まったものの、すぐに冷静さを取り戻したのか、日頃の訓練の賜物なのか「お帰りなさいませ」と普通に挨拶をされました。

「今、帰った。客室を準備するように」

「かしこまりました」

 出迎えた侍従がそばにいた男性に声をかけるとすぐさま去っていきました。
 訝し気に見る方、好奇心たっぷりの方、睨みつけている方、無関心な方、ぼ~と見惚れている方。ずらりと並ぶ使用人たちの反応は様々なようです。

 得体のしれない女が、お姫様抱っこされていきなり現れたのですもの。好意的に見ろと言っても難しいでしょう。でも、次はないと思いますから、安心してくださいませ。私のどこが目に留まったのかわかりませんが、今日だけです。きっと。

 使用人たちから傅かれた高貴なお方は周りの反応を気に留める風もなく、どんどんと建物の奥へと入っていきます。
 そして、たどり着いた部屋では侍女が待っていました。
 しばらく私の存在に釘付けだったようですが、数度瞬きをしたのち頭を垂れて改めて礼を取りました。

「失礼いたしました。おかえりなさいませ、レイニー殿下」

 レイニー殿下って、やっぱり……王子様だったのですね。俺の宮って、おっしゃっていましたものね。
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