婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
 やっと、問題が片付いてほっと息を吐きました。
 ふかふかの絨毯の感触がダイレクトに伝わって気持ちいいですわ。……ん? おかしいことにはたと気づきます。は、はだ、裸足でした。

「キャ……」

 小さな叫び声をあげた私は素足を隠すためにとっさにしゃがみこみました。女性が素足を見せることは、はしたないことと言われています。
 ドレスの裾で足先を覆って見えないように手で押さえます。

 レイ様にはとっくに見られていて、隠すも何もないかもしれませんが……平常心を取り戻すと途端に羞恥心がよみがえってきます。恥ずかしくて顔をあげられません。どうしましょう。靴、靴はどこに行ったのでしょう? 靴さえあれば……もしかして、庭園に置き去りになってるってことは……ないですよね。
 裸足で帰るわけにはいきませんし。どうしたらいいんでしょう。誰かにとってきてもらうとか? でも、誰に?
 
 軽くパニック状態に陥り入りながら、頭の中であれやこれや考えているとスッと影が差しました。

「ローラ。顔を上げて?」

 うつむいたままだった私はおそるおそる顔を上げました。菫色の瞳が目の前に。呼吸が止まりました。私を捉える菫色の瞳に吸い込まれそう。ドキドキして目が離せなくなって、息をするのも忘れてただひたすら瞳を見つめていました。

 ゴホン。
 不意に咳払いが聞こえました。

 
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