婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

診察

「フローラ様、どうぞこれをお履きください」

 浴室で香りのよいお湯で足をきれいに洗ってもらった後、用意されていたのは光沢のあるレモンイエローの室内履きというのものでした。
 椅子に座った私にエルザが履かせてくれます。

 柔らかくて締めつけがないのですっと足に馴染んで履きやすいです。うちにも欲しいわと思いつつ、立ち上がって着け心地を試してみました。軽くて歩きやすくて私は思わずターンをしてしまいます。
 ドレスの裾を翻してクルっクルと回ります。快適だわ。裾を少し持ち上げて室内履きを眺めたり、数歩歩いて履き心地を確かめたり、いろいろ試していると

「ふふっ……」

 忍び笑いが聞こえたので振り返るとエルザと目が合いました。
 西の宮または三の宮と呼ばれる宮殿はレイニー第三王子殿下の住居であり、エルザはこの宮の侍女長だと教えてくれました。

「あっ……ごめんなさい」

 恥ずかしくて咄嗟に両手で頬を押さえました。浮かれて人前でターンをするなど落ち着きのない態度は、淑女のふるまいではありませんでした。

「こちらの方こそ、申し訳ございません。お可愛らしくて、つい口元が緩んでしまいました」

 私を見るエルザのまなざしが温かくて好意的に感じられたので、呆れられたかもしれないと心配していましたが、どうやら大丈夫だったようです。けれど、侯爵令嬢として身の処し方は気をつけなければいけません。
< 55 / 262 >

この作品をシェア

pagetop