婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「先生、診察のあとで少しの間、お時間頂けますか? お忙しければ後日でも構いませんが」

「? いいですよ。わたしも話がありますので聞いてくださいますか」

 先生もですか? 
 疑問符は浮かぶものの了承の返事をしました。とにもかくにもすべては診察の後で、私はオットマンに足を預けました。

「これ、履いてくださったんですね。靴を履いていらっしゃらないと聞きましたので、差し出がましいかとは思ったのですが、お持ちしたのです」

 室内履きを脱がせながら先生が嬉しそうに顔を綻ばせます。でも、私が裸足であることが伝わっていたのですね。穴がいくつあっても足りないくらい恥ずかしいですが、そのおかげで室内履きに巡り合えたことになりますから少々の恥には目を瞑りましょう。

「お心遣いありがとうございます。ええ。とても気入りました。我が家に持って帰りたいくらいです」

「これはフローラ様のために用意したものですから、遠慮なくお持ち帰りください」

「よろしいのですか? ありがとうございます」

 お邸に帰ったらさっそく履きましょう。今日のいろいろな出来事がすべて帳消しになるくらい、うきうきと心が弾みます。
  
「ローラおねえちゃん。入ってもいい?」

 隣の部屋からドアの開く音がしてちょこんと顔を見せたのは、リッキー様でした。
< 59 / 262 >

この作品をシェア

pagetop