初めてされたプロポーズと最後にされたプロポーズ【優秀作品】
週末、いつものように優くんが車で迎えに来た。

私は助手席に乗り込んで、いつものように他愛もないおしゃべりをする。

「今日はどこ行くの?」

いつもの優くんなら、行きたいところを聞いてくるのに、今日は何も言わずに車を走らせてる。

「海に行こうと思って」

「海?」

優くんと付き合ってからの3年間で、海に行ったことはほとんどない。

会社の人みんなで花火に行った時に、優くんもいたくらい。

「どうしたの? 海、苦手じゃなかった?」

付き合い始めた当初、確かそんなことを言っていた気がする。

「ああ。でも、もういい頃かなと思って」

何が、もういい頃なんだろう?

3年も付き合ってきたのに、まだ分からないことがあるなんて……



海に着き、海が見える位置に車を止めた優くんは、そのまま降りようとはしない。

ハンドルに寄りかかり、無言で海を眺めている。

「優くん?」

私が声を掛けると、優くんはハッとしたようにこちらを向いた。

「あ、ごめん。退屈だよな」

「そんなことないけど、大丈夫?」

優くんの様子がいつもと違う気がして、心配になる。

「大丈夫だよ」

優しい笑みを浮かべた優くんは、私の頭にポンと手を置いた。

「砂浜に下りてみようか」

優くんはそう言って、車のエンジンを止めた。

私たちは手を繋ぎ、駐車場から階段を下りて、砂浜へと向かう。

台風が近づいているらしく、風があり、少し白波が立っている。

遠くに、少し荒れた海を楽しむサーファーたちの姿があった。

「こういう日の海は危ないのに……」

優くんが、聞こえるか聞こえないかぐらいの声でぼそりと呟く。

今日の優くんは、やっぱり変だ。

すると、優くんはふと足を止めて、私の手を握る手にぎゅっと力を込めた。

「美穂、俺と結婚してくれないか?」

えっ?

待ち望んでたプロポーズなのに、突然のことで言葉が出ない。

「美穂、ダメか?」

優くんに聞かれて、私は慌ててかぶりを振った。

「ちがっ、嬉しくて……」

一雫の涙が頬を滑り落ちていく。

嬉しい。すごく嬉しい。

でも、いつもと様子の違う優くんが気になって、嬉しいのに、何かが引っかかる。

< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop