初めてされたプロポーズと最後にされたプロポーズ【優秀作品】
「優くん、大丈夫?」

優くんは私の手をぎゅっと握ったまま、話し始めた。

「俺、父親を亡くしてるんだ。24年前に」

「うん」

お父さんがいなくて、母子家庭で育ったことは付き合い始めた頃に聞いた。

「サーフィンが好きだった父は、こんなふうに台風が近づいてる日にサーフィンに行って、波に飲まれたんだ」

それは……

私は、なんて声を掛けていいか分からなくて、ただ無言で聞いていた。

「だから、海にはあまり近づきたくなかったんだけど、でも、美穂にプロポーズするなら、やっぱりここじゃなきゃって思って」

えっ、なんで?

私は意味が分からなくて、首をかしげる。

「美穂は覚えてない? ここでプロポーズされたこと」

えっ?
それって、だいちゃんのこと?
いや、覚えてるけど、なんで……

「なんで、それを優くんが知ってるの?」

私、優くんに話したっけ?

私は、慌てて記憶をたどる。

「くくっ、やっぱり美穂は気付いてない。そうだと思ったから、黙ってたんだ。先入観なく、俺を好きになって欲しかったから」

は? どういうこと?

「あの時、ここでプロポーズしたのは、俺だよ」

「えっ!?」

驚いた私は記憶をたどるけれど、幼い頃に仲良く遊んだ男の子の顔はあやふやではっきりとは思い出せない。

「でも、だって、あれは、だいちゃんって男の子だったはず……」

そう、顔は思い出せないけど、名前は覚えてる。

優くんは私の隣で我慢できないとでも言いたげに、くすくすと笑う。

「美穂のそういう素直なとこ、ほんと好き」

優くんは、少しかがんで私の顔を覗き込む。

「美穂、俺の名前は?」

なんで今さらそんなこと聞くの?

小川 優大(おがわ ゆうだい)さん……」

そこまで言って気づいた。

「えっ、だいちゃんって、ゆうだいのだい?」

普通、だいちゃんって言ったら、だいすけくんとか、だいなんとかって名前だと思うじゃない!?

「そう。俺、父親の優也(ゆうや)から一文字もらって優大(ゆうだい)なんだ。だから、俺が生まれた頃、うちでは父親がゆうくんって呼ばれてて。だから、区別するために、俺は子供の頃、だいちゃんって呼ばれてた」

ええ!?

「じゃあ、優くんは、いつから私がここで一緒に遊んだ美穂だって気づいたの?」

私の頭の中はちょっとしたパニック状態。

「俺は、もう最初の頃から。俺は、美穂のフルネーム覚えてたから。お父さんがサーファーだって話を聞いた時に確信したかな?」

優くんはさっきまでとは違って、なんだか楽しそうだ。

「なんで言ってくれなかったの!?」

ずっと内緒にしなくてもいいのに。

「言ったろ? 今の俺を見て、今の俺を好きになって欲しかったんだよ」

そう言うと、優くんは手を離して腰を抱き寄せた。

「俺たち、幸せになろうな」

「……うん!」

優くんとだいちゃんが同一人物だなんて思わなかったけど、どっちも大好きってことは、私、好きな男性のタイプが変わってないってこと?

ううん、違う。

きっと私は、一生、優くんだけが大好きってことなのよ。

優くん、50年後も100年後も大好きだからね。



─── Fin. ───


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