エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

(もしかして製薬会社の……? 院長が先生の結婚相手にと考えている人?)

名字でピンとくる。突然の来訪に驚きつつ雅史に視線を投げかけると、その目は〝ごめん〟と言っていた。


「じつは、今日からしばらく雅史さんの秘書のお仕事をお手伝いすることになりました」
「……はい?」


思わず聞き返したが、芹菜は丁寧にもう一度同じ言葉を繰り返した。
言葉は悪いが、院長の差し金だろう。


「海老沢さん、悪い。話はあとで」
「あ、はい……」


診察の時間になったため、雅史は急いで白衣を羽織った。

引き止めるわけにもいかず、その姿を呆然と見送っていると、彼と入れ違いで総務のマネジャーが入室する。院長直々の依頼のため芹菜をよろしくという趣旨だった。

しかし、いきなり彼女を預けられても楓はどうしたらいいのかわからない。彼女を前にして珍しく冷静さを欠くのは、婚約者の実体を前にしているせいだろう。
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