エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
芹菜がパソコンを使用しているので、確認したい資料が見られない。雅史のパソコンを勝手に使うわけにはいかず、そこにあるもので見せてもらうためだ。
「あっ、海老沢さん、石川製薬の令嬢が手伝いにきてるって本当なの?」
ナースウォッチをポケットにしまいながら沙月が近づいてきた。
「……はい」
「さっき総務のマネジャーがここに来て話してたから驚いちゃって。でもいったいどうして?」
「私もよくわからないです」
「神楽先生の婚約者になるわけでしょう? 気を使うよね」
雅史の婚約者という言葉が胸にぐさりと突き刺さった。一夜限りの関係と割り切っているはずが、婚約者の登場で心は容易く乱される。
決して一緒には歩けない相手だと頭ではわかっているのに、たった一度の過ちが楓を苦しめていた。
ひと晩一緒に過ごせば満足だったはずなのに。それを大切な思い出にして、父親の勧める相手との未来を考えていこうと誓ったはずなのに。
返す言葉に困っていると、タイミングよくほかの看護師に呼ばれ、沙月は「じゃ、またね」と離れていった。