エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
その日の退勤時刻が過ぎた頃だった。
「神楽先生、このあと一緒にお食事でもいかがですか?」
席を外していた楓が部屋のドアノブに手をかけようとしたところで、中から芹菜の声が聞こえてきた。それが雅史への誘いだったため、思わずドアを開けずに聞き耳を立てる。
うれしそうなのは弾んだ声から明白だ。
きっと芹菜は雅史に好意を抱いている。政略的な結婚だとしても、彼女にとってはうれしい話なのだろう。
「悪いけど、今夜は夜勤だ」
雅史の素っ気ない声が聞こえてくる。
「でも、その前にお食事くらいはとりますよね?」
「簡単なもので済ませるつもりだから」
「それじゃ私ももう少しお付き合いします。海老沢さんには帰っていただくよう指示してください。あとは私がやりますので」
(えっ……)
いきなり自分を土俵に上げられて戸惑う。それも仕事を彼女に任せるなんて。