エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
その夜、楓は父親に電話を掛けるべく意を決し、ソファの上に正座をしてスマートフォンを手にしていた。
雅史の父親は手強いが芳郎も負けてはいないため、連絡先で芳郎の名前を表示させるだけで緊張が走る。
(……でも、ここで立ち止まってはいられないよね)
逃げたままでは話が進まない。しっかり自分の気持ちを伝えて、英太とは結婚しないと告げなければ。
思いきって受話器のマークをタップした。
数回コールが鳴ったあと、芳郎が《楓か》と応答する。続けざまに《仕事は辞められたのかね》と問いただされ、ぐっと言葉に詰まった。
《……なんだ、その報告じゃないのか》
「あのね、お父さん、話したいことがあるの」
緊張して声が上ずる。
《英太くんのことならなんの心配もいらない。昔反対したことは悪かったと思ってる》
「そうじゃないの。ごめんなさい、お父さん。私、英太さんとは結婚できません」
《……なに?》
芳郎の声色がひと際低くなった。
たったひと言で怯みそうになったが、堪えて先を続ける。