エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

「好きな人がいるの。だから、ほかの人との結婚は考えられない」


息を呑む音が聞こえたあと、電話の向こうがいきなり静かになった。通話が切れてしまったのかと耳から離したが、画面表示は通話中のまま。


「お父さん?」
《ともかく、一度家に顔を出しなさい。いいね?》


芳郎は何度も念押しして一方的に通話を切った。

好きな人がいると言った途端、空気が変わった気がする。顔を突き合わせているわけではないからはっきり断言できないが、少なくとも話は聞いてくれそうな雰囲気だ。

これまで強硬姿勢を崩さなかった芳郎だが、さすがに〝娘に好きな人がいるのなら〟と態度を軟化したのではないか。

(もしかしたら雅史さんとのことを許してもらえるかもしれない)

そんな淡い期待を抱きつつ、雅史に実家の話もしなければならないと考えながら、楓はその夜ベッドに入った。

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