エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
過去の因縁
雅史と想いを伝え合ってから十日が経過した。
すぐに仕事に飽きるだろうと予測していた芹菜は、変わらず補佐として働いている。
その日の午後三時過ぎ、雅史が慢性硬膜下血腫の執刀にあたっている手術には他院からの医師たちが見学に訪れていた。
テレビ局のようにたくさんの画面が並ぶ中央モニター室に響くのは、手術室から聞こえる医療機器の電子音と雅史が指示する声のみ。ピンと張った糸のように緊張感に満ちた空気は、ガラス一枚を隔てたモニター室にも漂っていた。
医師たちを案内してきた楓も同席し、一心に雅史の執刀姿を見つめる。
「境目はダブルサクション。ある程度出したら、中はキューサー」
楓と話すときより冷ややかな声からも、神経を研ぎ澄ませているのはわかる。彼の手元が映し出された映像には無数に行き交う血管や神経があり、ピンセットのような形状のバイポーラを扱う精緻な手つきに、楓も息を詰めて見入った。
雅史の術式を見学するのは、秘書になったこの一年に何度かある。そのたびに普段見せるのとは違う彼の気迫に圧倒され、雅史から目を離せない。
そしてそんな姿に人知れず胸を熱くしていた。