エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

さらに興味を持ったのか、芳郎も前のめりだ。


「お父さんには内緒にしていてごめんなさい」
「勤め先のことを私に黙っていたのは、連れ戻されるとでも考えたからだろう」


図星のため反応に困って狼狽える。しかしこの話題で芳郎が笑みを浮かべるとは思いもせず、雅史との結婚を許してもらえそうな空気が楓に大きな勇気を与えた。

(こんなふうに話すのは何年ぶりかな。もしかしたら、お母さんが亡くなってから初めてかも)

雅史の父親が『あなたのお父様は、雅史との結婚は許さないでしょう』と言ったのは、きっとなにかの勘違いだ。

芳郎の好意的な態度が楓に自信をつけさせる。


「本当にごめんね。あ、お母さんのことも知ってたの」
「……すみれを?」
「神楽慎一さんっていうんだけど、お父さんも覚えてる?」


心を弾ませて問いかけると、芳郎は突如として顔を強張らせた。眉の間に深い皺を刻み、膝の上に置いた手で拳を握る。
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