エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
「お父さん?」
楓の呼びかけにもしばらく反応しなかった芳郎は、唐突に立ち上がった。
「楓、悪いが、神楽総合病院の跡取りの息子が相手ならあきらめてくれ」
「……え?」
つい先ほどまで浮かべていた笑みはどこにもない。普段の厳しい表情で楓に言い放った。
「どういうこと? どうして神楽総合病院の息子だとダメなの?」
「そこに勤めているのなら、今すぐ辞めて帰ってきなさい」
「待って、どうして――」
「病院で働きたいのなら、うちで働けばいい。話は以上だ」
芳郎は冷たく言い置き、リビングを出ていってしまった。静かな怒りのような、それでいて深い悲しみのような色が背中に滲んでいた。
180度変わったとも言える態度の豹変に楓はおいてきぼり。
(院長が言ってた通り……。でもどうして?)
なにがなんだかさっぱりだ。理由もなく結論だけでは納得できない。
ふたりの間になにがあったのか考えたところでわかるはずもなく、楓は取り残されたリビングでひとり、喪失感に襲われた。