エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

「神楽慎一とすみれさんは若い頃、恋人同士だったのよ」
「えっ……」


(院長がお母さんの元恋人……!?)

思いも寄らない過去を聞き、激しく動揺した。


「でも神楽慎一にはべつの女性との縁談が持ち上がってね。すみれさんが身を引いたの」


尚美によれば、その後、芳郎がすみれを慰める形で交際がはじまったらしい。

それから順調に交際を重ね、ふたりは結婚に至ったが、芳郎は常々〝すみれは神楽慎一を想い続けている〟と尚美に零していたという。

これは楓の勝手な想像だが、そんな現実から逃げるために芳郎は仕事に没頭していたのかもしれない。家庭をあまり顧みなかったのは、心にそんな闇を抱えていたから。

楓が『好きな人がいるの』と芳郎に話したとき、彼の態度がいくらか和らいだように感じたのは、すみれが本当に好きな人と結ばれなかったことを気に病んでいたからではないのか。楓に好きな人がいるのなら、その人との未来を邪魔したくないと。

しかしその相手が神楽慎一の息子だと聞き、受け入れられなくなった。
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