エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

尚美がしみじみ呟き肩を落とす。


「これだけたくさんいる人間の中で、神楽慎一の息子と楓が出会うなんて想像もしなかったわ」


出会わなければよかったのにと暗に言われたよう。


「すみれさんが引き合わせたのかなと思っちゃって切ないな」


まるで元恋人の慎一を忘れられずに亡くなったみたいだ。

(でも、本当にそうなのかな。お父さんとの間にふたりも子どもをもうけているのに、お母さんはそんなにずっと長い間、院長を想い続けていたの?)

少なくとも夫である芳郎の話をするすみれから、そんな切実な事情は感じられなかった。


『お父さんは大きな病院を守って、すっごくカッコいいのよ』


幼い頃に何度となくのろけじみた話を聞いたものだが、〝お母さんはお父さんが大好きなんだな〟と子どもながらに思っていた。それなのにあまり家庭を顧みない父親を恨めしいと。〝お母さんの気持ち、わかってるのかな〟と兄と話したこともある。
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