エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
「うん。石川さんがちょっとぼやいていたから。海老沢さんにしては珍しいなって思ってたんだ」
「……石川さんが?」
ミスを犯した覚えはまったくない。
「あ、今の、俺が話してたって内緒ね」
男性技師は口元に人差し指をあて、ナースステーションを去っていった。
いわれのない話をされ、心がざわつく。ミスをしているのは楓ではなく芹菜のほう。
彼女が来てからのこの三週間、芹菜の後処理で大変な思いをしているのは楓だ。
初歩的な郵便物の仕分けですら入力を間違え、英語が得意と言うから翻訳を任せれば、文脈をまるで無視した英訳をする。医療用語がわからない以前の文章はひどく、最初から楓がやりなおしている。
それを楓のミスだと吹聴しているとしたら、芹菜はいったいどういうつもりなのだろう。
考えられるのは、ただひとつ。常に雅史のそばにいる楓が邪魔だからだ。
院長に雅史の結婚相手として認められたのは自分であって、楓ではないと。彼女は正々堂々と彼に対する想いを宣言していた。