エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

昨日はドラッグストアで妊娠検査薬を買ってきたが、怖くて試していない。妊娠していたら困る自分と、それに期待する自分のふたりが葛藤してにっちもさっちもいかないのだ。


「雅史さん、もしも私が……」


そこまで言いかけ、慎一のとき同様に止める。遠くアメリカにいる雅史に余計な心配はかけたくない。


《もしも楓が、なに?》
「……いえ、なんでもないです。そちらでも頑張ってくださいね」


彼を見送ってからまだ二十四時間も経過していないのに、もっと長い時間会っていない気がする。すぐに会えない場所にいるからこそ余計に恋しいのかもしれない。


《五日なんてすぐだと思ったけど、意外と長いな。せめて俺がこっちにいる間に引っ越しの準備を進めておくように。帰国したらすぐにでも俺のマンションにおいで》


ふたりの未来が不確実な今、一緒に暮らす話題は気持ちを明るくしてくれる。マンションの契約の都合もあるため解約はすぐにできないかもしれないが、荷物を準備していれば気も紛れる。


「わかりました」


もっと話していたいが、仕事に遅刻するわけにもいかない。楓は通話を切り、バッグを手に取りマンションをあとにした。
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