エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
楓のアメリカ行きを阻止された不満があるため、つい強い口調になったのは否めない。
しかし芹菜は学会でも懇親会でも秘書としての仕事をいっさいせず、ちょっとしたことで雅史に通訳を頼んだり『飽きちゃいました』と不平を言ったり、ことごとくお荷物だった。
楓ならスマートにこなしたであろう業務を彼女はなにひとつできていない。補佐とはいえ秘書として働いているのに。
そんな場面に出くわすたびに〝楓だったら〟と何度思ったことか。
「遊び半分でなんてひどいです。私は私なりに一生懸命やっています」
拳を握った両手を振り振り力説するが、計算づくの仕草は雅史をかえってイラつかせる。
それで騙せる人間もいるだろうが、雅史には通用しない。
「一生懸命やっている人間が、自分のミスを人になすりつけたりするのか」
「な、なんの話ですか」
「院内に触れ回っているそうだな、楓はミスが多いと」
芹菜はハッとしたように目を丸くしたあと、眉根を寄せる。