エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
ゆっくり解けていく結び目
職場のみんなの様子がおかしい。
楓がそう感じたのは、雅史がアメリカ出張から戻ってから一週間が経つ頃だった。
挨拶をしても話しかけても、どことなくよそよそしい。休憩中に話の輪に入ろうとすると、蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまうのだ。
(私、なにかしたのかな……)
心あたりがないため、考えてもわからない。首を捻って困惑している最中、トイレの個室から出ようとしたときだった。
「海老沢さんの話、聞いた?」
洗面台にいるらしき人たちの会話に楓の名前があがり、開けようとしたドアから手を離す。
「うん。石川さんっていう婚約者がいるのに神楽先生に言い寄ってる話でしょ?」
(――えっ!?)
思わず声が出そうになり、慌てて口を手で押さえる。
「そうそう」
「秘書にしちゃうのはどうかと思うけど、石川さん、相当つらい想いをしているみたいね」