エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
朋久がクスリと笑う。
ふたりは大学時代からの友人で、毎月飲みにいく仲だという。一月といったら、ほんの半年前の話だ。
「朋久に言われたくない。お前だってあのときは菜乃花ちゃんとは単なる同居人だったろう?」
朋久と菜乃花は幼馴染みで、彼女が高校生のときに両親を亡くし、以来一緒に暮らしはじめたのだとか。そのまま気持ちを育み、結婚とはロマンティックだ。
「それで今日は雅史たちの証人になってほしいって?」
「そう。朋久たちのときは俺がサインしたからお互い様ってことで」
雅史の気配を察知し、楓がバッグから丁寧に折りたたんだ婚姻届を取り出す。雅史にさりげなく手渡した。
いっぽうの証人欄には楓の父のサインがある。芳郎はあの日以来、肌身離さずすみれの日記を持ち歩き、毎日読み返しているという。
『母さんと一日一日をやりなおしているみたいだ』
そう笑う顔は、楓がこれまで見てきた中でも群を抜いて幸せそうだ。本音を言えば、亡くなる前に母の気持ちに気づいてほしかったが、生涯気づかずにいるよりずっといい。