エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

医療事務の職員たちは制服があるが、医師就きの秘書はみな自前のスーツ姿である。初夏から夏の終わりにかけてはブラウスにスカートでもよしとされているが、それ以外はグレーや黒のスーツが義務づけられている。

ゴールデンウイークが明け、ようやく堅苦しいスーツからフェミニンな白いブラウスを着られる季節になった。


「海老沢さん」


雅史に名前を呼ばれた楓が、瞬時にノートパソコンを操作し、プロジェクターの画像を左総頚動脈撮影に切り替える。

彼の説明の速度に合わせて次から次へ画像を変更しつつ区切りのいいところまでくると、雅史から〝ありがとう〟をのせた目線が飛んできた。決して揺らがない、自信に満ち溢れた真剣な眼差しだ。

三十三歳にして神楽総合病院の脳神経外科を牽引する彼は、大学を卒業して研修医として働いた後、単身渡米。数年にわたり脳神経の最先端医療を学んできた。

帰国後は彼の父親が院長を務めるここで、中核を担う医師として磨き抜かれた腕を存分にふるっている。
それだけでも十分に人々の羨望を集めるが、雅史は人並みを大きく外れるほど優れた容姿の持ち主でもある。
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