エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない
(私、これから先生に抱かれるんだ……)
院内の羨望をひとり占めしているようなドクターと一夜の過ちを犯そうとしている。
冷静に考える時間を与えられ、とんでもない事態が急に恐れ多くなってきた。これならキスで理性を飛ばされたまま、勢いで抱かれたほうがよかったかもしれない。
たぶん雅史は、一周年記念のプレゼントのひとつとして楓の希望を叶えようとしているだけだろう。そこに好意はなく、あるのは〝行為〟そのものだけ。
でも、この夜を逃したら絶対に後悔する。
愛のない結婚をする前に、ひとときだけでも好きな人と結ばれたい。たとえそれが、たったひと晩だとしても。
コックを捻ってシャワーを止め、バスローブを羽織りパウダールームから出た。
本当にスイートルームだったため、広い室内で方向感覚を失う。一度出入口のドアへ行きかけて戻り、リビングスペースに辿り着いた。危機的とも言える状況も関係しているだろう。とにかく気持ちが焦る。
雅史はベージュ色の革張りソファに座っていたが、楓に気づくと立ち上がってやってきた。
「俺も浴びてくるから」
頬をくすぐるように撫でられ、それだけで背中が泡立つような感覚になる。