エリート脳外科医の独占愛に、今夜も私は抗えない

雅史は腕時計で時間をたしかめ、大きなため息をついた。


「ちょっと行ってくる」
「はい。いってらっしゃいませ」


診察開始まであとわずか。雅史は足早に部屋を出ていった。

緊張から解き放たれた楓は肩から息を吐き出し、力が抜けたように椅子にストンと腰を下ろす。


『キミも』


雅史はそのあとなにを言おうとしたのだろう。
〝キミも一夜限りと割りきっていると思ったのに〟
そんな言葉しか思い浮かばずヒヤッとする。

(〝やり逃げ〟を否定するのはNGだったんじゃないの……?)

彼にしたら楓がそんな気持ちでいるほうが、都合がよかったに違いない。だからわざわざ『違う?』と確認したのだろう。

自分の失言を後悔して頭を抱えた。
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