俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

「必要ない。お前ももう帰れ」

 ばっさりと言い切ると秘書は唇をぎゅっと結んで悔しそうな顔をした後、そそくさと部屋を退出していった。
 向こうでも女に誘われる機会は幾たびもあった。こはるのことを忘れるために受け入れたこともあったが、どうしてだか情事の最中に彼女の顔が脳裏によぎってしまう。そして胸がちくりと痛みを訴えるのだ。ひどいときは情欲が失せてしまうこともあったほどだ。

 こはるに拒絶される前まではこんなことなかったはずなのに。

 俺の中であの出来事はトラウマのようにしっかりと脳に染み付いてしまっていた。

 ぼんやりと天井を見ながら考え込む。

 あの日、ヴェネツィアでゴンドラの遊泳を楽しんでいたとき。ためいき橋の真下で、こはるは自ら唇を重ねた。
 顔にはおくびにも出さなかったが、内心落ち着かない気分だった。そのせいでろくに会話もせずホテルにて別れてしまうという失態をかましたのだが。
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