俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

 だからこはるの視線や遠藤が何かを訴えかけていることが分かっていても、その場から逃げることしかできなかった。もう、何も聞きたくなかったのだ。

 俺はこんなにも弱い人間だったのだろうか?
 
 今まで俺の思い通りにならないことなどほとんどなかった。勉強も運動も人間関係も、俺が願えばなんでもうまくこなす事ができた。

 だからこそ、痛みに耐性がなかったのだろう。絶望に打ち勝つだけの力がなく、ただひたすら逃げるだけの人間になってしまったに違いない。

 逃げた俺はそのままタクシーを呼び、会社へと戻った。あそこには俺専用の自室があり、家に帰れない時のためにキッチンやシャワーなど、全て完備されている。
 こはると暮らしていたあの家に戻ることなど出来ない。その空間にいるだけで、心がはち切れそうになるだろう。
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