俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

 ふらふらと部屋を退出した私はそのまま建物を出て、表通りにたどり着く。
 都会から外れた繁華街を5分ほど西に歩いたその先に、この劇団スペードはあった。そこは私、花宮こはるの女優としての活動の本拠地でもあり、自分が自分としていられる唯一の場所でもあった。

 私は繁華街を通り過ぎ、当てもなく歩いた。いつもと同じように電車に乗り、座席に座っていると目の前にはテレビでもよく見る女優の広告が目に入る。
 大手化粧品メーカーの『ルナトーン』の広告で、大人の女性に人気のある国内ブランドだった。

『鮮やかな新色が登場!』

 リップスティックを手にこちらへ笑みを送っているのは日本でも知らないものは誰一人としていないだろう大女優。
 51にもなっても衰え知らずのその美貌で微笑むその女に私は小さく鼻を鳴らし、視線を背けた。

 仄かに薄暗い感情が芽生え、私は蓋をするようにぎゅっと瞼を閉じる。
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