初恋は海に還らない
夜の深い時間帯、祖父母が寝静まったことを確認して家を出た。
夜のこの街はとても静かで、ここに来るまでに誰ともすれ違うことはなかった。
私がここに飛び込み死んでも、きっと誰も気付かない。
「……私がここで死んだら、アイツらを少しでも後悔させられるよね」
私の呟きは波の音に吸い込まれる。
アイツらに少しでも傷付いて、後悔してほしい。自分達のせいで人が死んだ、死なせたと、私のように眠れぬ夜を過ごして欲しい。
ザザン、ザザン、黒い波が私を誘っている。それを見つめていると、波打ち際にある大きな岩の隙間で、何かがキラリと光った。
「なに、あれ……あっ」
何かを確認しようと身を乗り出した瞬間、私の背を押すように、突然強い追い風が吹いた。
そのまま私は手を滑らせ、スローモーションのように身体が傾いていく。