初恋は海に還らない




 言葉を失った私を、黒い瞳が射抜く。何も答えられずに居ると、男は煙草を深く吸い込む。
 煙を吐き出しながら、ジリジリと短くなったそれをポケット灰皿に押し付け、私の腕を引き立ち上がらせた。



「えっ、な、なんですか?」
「送る」
「……そんなことしなくても一人で帰れます」
「帰りに他の場所で死なれたら困るだろ」
「っ、なんで……貴方には関係ない」
「関係あるだろ。一度助けたのに死なれたら、寝覚めが悪すぎる」



 振り払おうとしても放してもらえず、そのまま引き摺られるように堤防から降ろされ、砂浜を進む。



「お前見ない顔だけど、誰の家の子供」
「…………白澤です」
「は、もしかして白澤さんのとこの孫なのか?」
「……はい」
「あそこのジジババにはガキの頃よく世話んなったんだよ」
「…………」



 男は私の腕を掴んだまま振り返る。そして、じいっと無表情で私の顔を見つめた。その視線に居心地が悪くなり、私は俯く。



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