初恋は海に還らない
その笑顔が心地いい
カーテンの隙間から漏れる日差しと、頭の痛くなるような蝉の鳴き声で目を覚ました。
ぼやけた視界で掛時計を見ると、八時を回っている。随分寝てしまったらしい。
和室から廊下に出ると、居間から祖父母ともう一人、男の声がする。
こんなに朝からの来客に驚き、居間の前でしばらく聞き耳を立てていると、来客の声に聞き覚えがあることに気が付く。
そう昨日、いや、今日、家に辿り着くと、洸は私のことを玄関に押し込んだ。そして──。
「リストカットなんてするなよ。あれは痛いし、なかなか死ねない。首吊りも失敗したら後遺症が残って一生病院生活だ。兎に角早く寝ろ」
恐ろしい圧でそう言い残し、引き戸を閉めて帰っていった。
そして、居間から聞こえるこの声は──。
私は居間のガラス戸を勢い良く開いた。