初恋は海に還らない
キコキコ、ペダルが回る度、決して新しいとは言えない自転車が軋み悲鳴をあげた。
私は現在何故か、理玖と呼ばれる青年の自転車の荷台に乗り、住宅街を走っていた。
気まずい。洸は良かれと思ったのかもしれないけど、つい先程会ったばかりの人間とニケツなんて距離感間違えてる。そういえば、洸も最初から距離感間違えてたな。
私が現実逃避のように通り過ぎて行く住宅街の光景を見つめていると、自転車を漕いでいる理玖が私に声を掛けた。
「どっか行きたいとこあんの?」
「家に帰りたい」
「ふーん、かき氷でも食う?」
「ねぇ話聞いてた?」
「聞こえねーよ」
「ぎゃっ」
坂道に差し掛かり、自転車のスピードが急に上がった。思わず理玖のシャツにしがみ付くと、どんどん上がっていくスピードに似合わない、のんびりとした声が前から聞こえた。