初恋は海に還らない



 私はとりあえず理玖の話を最後まで聞こうと、言葉を飲み込み、すっかり溶けてしまったカキ氷をジュースのように飲みながら頷く。


「自分のことを誰も知らない場所に行って、一からやってみたいんだよ」
「うん。いいと思うよ」
「この街ってどこに行っても顔見知りばっかりだろ? みんな家族みたいなもんなんだよ。だから、ここを出たらどこまでやれるのか試したい」



 理玖は真剣だ。住み慣れた優しい土地にずっと居れば、きっと変わらず幸せで居られる。


 けれど、そんな場所から飛び出し挑戦をしたいという理玖は、将来のビジョンがしっかりしているんだろう。


「……けど、家族か……そういうのいいね」
「悪いことしたらすぐバレるぞ」
「悪いことしないもん」
「都も学校で進路のこととか言われるだろ。希望は大学? 専門? それとも……就職とか?」



 理玖の質問に、私は身体を硬くする。これは別に変な質問ではない。けれど、それ以前に私には問題が山積みだ。



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