初恋は海に還らない


 
 けれど、美しい景色を見た時、美味しいものを食べた時、心震わされた時、さまざまな経験をした時に、そこに物語を添えたらどうなるんだろうと、ふと頭をよぎったことはある。


 何かが動き出す時、必ずきっかけがある。それはいつ、どこにあるかは分からない。だから人はそれがきた時に迷わず掴めるかを試されているのかもしれない。
 

 ────そうか、これがきっかけか。私は妙に納得してしまった。



「うん。書こうかな」
「……もしかして今決めた感じか?」
「なんか、書き始めるきっかけって人それぞれだし。それが巡ってきたなら書くしかないでしょ」
「うわ、俺、未来の大人気作家を生み出しちまった」
「大袈裟だよ」
「好きこそものの上手なれだろ」
「……読むことは好きでも、書くことは好きか分からないじゃん」
「けど都は好きになる。きっと」



 私が笑うと、洸はとても優しい目で私を見つめた。私は洸のこの目がとても好きだ。



「洸は、何で彫り師になったの」



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