初恋は海に還らない




 何となくの質問だった。


 何故洸がこの仕事についたのかを私は知らなかった。


 私の質問に、洸は珍しく目を伏せる。その目は何かを懐かしむようなものだった。

 

「最初から、彫り師になりたかったわけじゃねーんだよ」
「え」
「けど、刺青に対してカッコイイとかキレイって、漠然と憧れてて。そんな時背中を押してくれた奴が居たんだ」
「…………」
「やってみなよ、洸なら掘れるようになるよって、何の根拠もないのにそいつが言ったから。今の俺がいる」
「……そうなんだ」


 
 洸は優しい表情をしているのに、どこか寂しそうだった。戻らない過去に想いを馳せている、そんな表情。



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