初恋は海に還らない
私はどんな表情をしていいのか分からず、視線を下げた。
「今日から、よろしくお願いします」
「何言ってるの、子供がそんなに畏まってどうするの!」
「そうだよ都、昔みたいに自由にしてて良いからな?」
「……うん」
「……それじゃあ、お父さんお母さん、都を少しの間お願いね」
母は午後から介護の仕事があるから、家に上がらずに帰ってしまうらしい。
私の髪の毛をひと撫でし、出ていってしまった。そんな母の背を見つめていると、両手に持っていた荷物の重みが急になくなる。
視線を持ち上げると、祖父が私の荷物を持ってくれていた。
「疲れただろ。じいちゃんが運んどいてやるから、居間で昼でも食おう」
「あ、ありがとう」
「都は素麺食べられるわよね?」
「うん、平気」
「ならよかった。早くお上がり。手を洗っておいで」
私は頷き、洗面所に向かった。手を洗いながらふと鏡を見ると、日焼けをしていない青白い肌の、不健康そうな見た目の自分と目が合った。