君の隣だから、笑顔。〜あまのじゃく男子は、いつもイジワル〜
「弥優、遅いよ!」
他人のかばんまで抱えて、息せき切って昇降口まで来た私に、佳那は理不尽にもそう言った。
「佳那、かばん忘れてたよ?」
私がちょっと怒気を込めた声で言うと、佳那は「あっ」と小さく呟いた。
「ごめん、弥優。周りのこと考えてなかった」
佳那は素直にぺこりとして、その体勢のまま、上目遣いで私を見た。
その姿が、エサちょうだいと物欲しそうに言うウサギに見えちゃって、私はくらくらした。
こういうとこ! ほんと、佳那には勝てないや。
「もー、佳那ったら。しょうがないなぁ」
私が笑って許すと、佳那はすぐに笑顔の花を咲かせた。
「弥優、ありがとっ!」
あう…私が男子だったら、絶対惚れてたんだけど……。
あざとすぎない? わざとやってる?
でも、佳那ってこういうの自然にやってるんだよねぇ……。
佳那のそういうとこが好きなんだよな、と、私はふふと笑った。
「ねね、弥優、ほら、生徒会長が間近にいる!」
佳那は、人だかりの後ろから一生懸命背伸びして、その姿を一目でも見ようと頑張っていた。小柄なんだから、最前列に行っちゃえばいいのに。
変なところで、佳那は礼儀正しい。
私は特に興味もなかったから、後ろの方でかばんを抱えて待っていた。
鍵を拾ってくれたお礼を野山くんに言いたいなとは思ったけど、流石にこの人気じゃあ迷惑だろうし。
ちょっとしたら、急に周りにいた女の子たちがいなくなっていって、佳那もそれに流れて戻ってきた。
佳那はしゅんとした顔をしていて、「ごめん、待った?」とだけ、言った。
「どうしたの?」
私が心配になって聞くと、佳那は「先輩、拝めなかった」と、言う。
「拝むって……。人ごみかき分けて行っちゃえばよかったのに」
「そんなの強引すぎ。傍から見ててダサい」
「……」
変なところにプライドがあるんだな……佳那って。
「はぁー、でも、見たかったなぁ、野山くん。見たかったなぁ、生徒会長」
佳那がうなだれた、その時。
「あっ! さっきの子だ」
男の子の声が響いて、佳那は振り返った。