君の隣だから、笑顔。〜あまのじゃく男子は、いつもイジワル〜
「何してるの?」
急に話しかけられて、驚いた。顔を上げると、前の席に座っている男子がこっちをみていた。
あぁ、そうか。まだ、授業は終わってなかったんだ。
今は数学の授業中。
私、授業があまりにも暇すぎて、ダメだとわかってながらついつい落書きをしちゃってたんだ……。
授業だってこと、今ようやく思い出したとこ。
…我ながら、これ、酷い絵だな。何描いてたんだっけ?
教壇の前の方の様子をそっと伺いみると、先生は黒板にも字を書くのに夢中で、私の落書きには全く気付いていなかった。
ひとまずホッとして、人様に見せられるようなモノではない落書きを手で覆い隠す。
「あ、えっと、絵…描いてた」
「あー、暇だもんね」
鐘原くんはクスクス笑って、頷いた。
「先生には…内緒ね?」
私が手を合わせると、鐘原くんは「もちろんね」と言って、ニコッと笑った。
彼は、鐘原柊哉くん。真面目そうな人だな、というのが彼の第一印象だった。
みんな、入学したての頃こそはガチガチだったけど、1ヶ月経って気が緩み始めた。そんなイキった男子たちが第1ボタンを外し始めても、鐘原くんはきっちり着こなしているから。
「え、何それ、暗号でも書いてたん?」
と、私と鐘原くんの穏やかな会話に邪魔が入った。
「うぅ…瀬凪」
瀬凪は、例のようにニヤニヤしていた。
……暗号? 何を言っているんだろ?
一瞬ぽかんとした私に、瀬凪は私のノートを指さしてクックと笑った。
あーっ!
いつの間にか、隠したはずの落書きが、あらわになっていた。
「暗号って、酷い! イヌ描いてたの!」
私のド下手くそな絵、見られた。
恥ずかしさに顔を赤くしながら、私は反論した。いや、イヌを描いてたのかも覚えてないけど、この形は……多分イヌでしょ。
「僕はネコだと思ってたな」
鐘原くんが、私の絵を指さした。
「だって、ほら、ヒゲが描いてあるでしょ」
「あっ、確かに」
鐘原くんが言うと、説得力ある。ホントにネコに見えてきた。うん、ネコを描いてた記憶がある気がする。……うん。
「確かにって……お前、自分でも何描いたか分かんないのかよ。てか、もはや絵なの、これ?」
せっかくそういうことにしてまとめようとしてたのに、またまた瀬凪の邪魔が入る。
「もうっ……意地悪!」
私が睨むと、瀬凪は可笑しそうに笑った。
その顔が以外に無邪気で、少しびっくりした。