君の隣だから、笑顔。〜あまのじゃく男子は、いつもイジワル〜

「副委員長ー、頑張れよー」
瀬凪や、話を聞いていた男子たちの野次が飛ぶ。

……うぅ、私の絵の才能のなさがクラス全員にバレた気がする……。
でも優空ちゃんに教えて貰ったら、ちょっとは上達するかな?

「了解よ、委員長」
男子たちの声援に優空ちゃんは張り切って、ペンを持ってこっちにやって来た。

「如月さん、ノート借りていいかしら?」
「うん。何か描いてくれるの?」
優空ちゃんは、キュッと音を立ててキャップをとり、サラサラ〜ッとペンを動かした。
そして手を離すと、あら不思議。私のノートの上には、今流行りのアニメの主人公がにっこり微笑んでいた。

「わぁ、すごい! 写したみたい!」
私が素直に感心すると、横で見ていた佳那も「副委員長ちゃん、すごい」と拍手した。

「ふふ、ありがとう。絵を写すことをね、トレスっていうのよ如月さん。専門用語だけれど」
優空ちゃんは、満更でもなさそうに口角を上げた。

「これ、ネコだっけ?」

優空ちゃんは私の絵を見て、横にまた何か描き出した。
今度は、顔に線の模様があるキジトラが座っていた。脚の線とか、毛並みとか、プロの絵描きさんくらいに上手い。

「わ、すごーい! 私、これ描きたかったの、これ」
「それにしてはかけ離れてるけど……?
…痛っ! 」
佳那の余計な一言のお返しに、足で軽く踏んずけた。

「実際に見たものを模写してみたら上手くなるんじゃないかしら」
優空ちゃんはそう言って、自分の絵を指さした。
「このネコはね、うちで飼ってるネコがモデルなのよ。いつも見てるから、無意識に描けちゃうんだわ」

そうだとしても、充分上手いと思うけど。

「至らない絵だけど、まずは私の絵を参考にして描いてみたらどうかしら?」

「いや、至らなくないけど?! ありがとう、優空ちゃん」

優空ちゃん、絵上手すぎ。

私が頭を下げると、優空ちゃんは照れたように、ズレたメガネの位置を直した。

「そんなに言うことでもないわよ。楽しかった」

「私も! ていうか、名前で呼んでいいよ。名字だと、堅いし」

「本当? じゃあ……みゆう、ちゃん、と呼んでも……」

と、盛り上がっているところに。

「秋元っ!」
教室中に、誰かの怒ったような声が響き渡った。
その大声に、クラス中の生徒が反応して、教室の入口に注目した。

教室の入口にいたのは、生徒会書記の、野山くんだった。

秋元って……佳那?
私が佳那に向き直ると、佳那はハッとした表情をして、慌てて時計を確認した。

「あっ! ご、ごめんなさい! 忘れてました!」

佳那は泣きそうな顔で、色んな人の机に足の先をぶつけながらドタバタと走って行ってしまった。
その動作が早すぎて、声をかける暇もない。

「秋元さん、生徒会かな」

優空ちゃんがそう言い、首を傾げた。

「どうせ、会議の時間忘れてたんでしょ」
私はそう言って、佳那のさっきの慌てっぷりを思い出し笑いした。

佳那はつい先日、
「野山くん、やっぱかっこいい! 弥優、私生徒会入るね!」
と急に言い出し、電撃で生徒会長の総務になってしまった。

なんてすごい行動力。

でも今みたいに、ちょっと抜けてるんだよね……そこは笑うしかないか。
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