君の隣だから、笑顔。〜あまのじゃく男子は、いつもイジワル〜
でも、私の想像と違って、瀬凪は何も言わなかった。辺りに続く沈黙。
あれ、もう帰った、かな……?
誰の声も物音もしないから、瀬凪が黙って離れたのかと思って顔を上げると、……。
「えっ」
瀬凪は、まだ私の近くにいた。それどころか、彼は心配そうな顔で私をじっと見ていたの。
「なっ…何……よ」
弱みでも握ったつもりなのかな。
私は警戒して、平気そうに作った声を絞り出した。でも、瀬凪は困ったような笑いを浮かべるだけ。
「何だよ、俺、傷心してる子に冗談言うような奴に見える?」
「……」
ごめん、見える。
私が黙ったままうなずくと、瀬凪は「はぁ……」と、ため息をついた。
「あのなぁ…本気で言ってるわけじゃないから」
「……はぁ?」
何のことを言ってるの?
私は首を傾げ、瀬凪の方を見た。
「……っ」
瀬凪は何やらごにょごにょ言って視線をさ迷わせた。
「や、やっぱ今のなし!」
「嘘ってこと?」
「い、いや嘘じゃないけど! 忘れろ!」
「……?」
結局理解出来なくて、私は腕に顔を埋めた。
「はぁ……慰めよーとしてるとか? どっちにしても、私のこんな顔見ないで!」
「え、あ、いや…それはごめん! いや、でも、そうだ! 俺、女子の人間関係なんてよく分からんけど、如月が傷ついてるのはわかる」
「……そっか…ふふ」
何故か必死になってる瀬凪を見てたら、ちょっと笑えてきた。
「え、何だよ、まぁ笑ったならいっか」
瀬凪はそう言って、くしゃっと顔を崩して笑った。
「……っ」
その顔は、いつか見たように無邪気で……、私の心臓が、少しだけ、跳ねた。
そう…ホント、少しだけ! いつもからかってくるような人に心臓跳ねたりしないし!?
「何百面相してんだよ、ほら立てよ!」
そう言った瀬凪は、いつも通り私をからかう顔だった。