君の隣だから、笑顔。〜あまのじゃく男子は、いつもイジワル〜
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴ると同時に、ひとしきり先生の話が終わって、トイレ休憩の時間になった。
休憩って言われても、困る。
何故って、みんな席を立たないから、何をするにも気まずいのだ。
そうなると佳那のところにも行けないし、何もしなくてもぼっち感が出て余計辛い。誰かに話しかけるのも、このしぃんとした教室の中で場違いな気もするし。
「あっ、それ、かわいー! 『sasaburanka』のだよね?」
不意に、よく聞きなれた声が教室に響いて、ハッとする。
……佳那。
佳那は、こんな状況を気にも止めずに斜め前の席の女の子に話しかけていた。
ショートカットで、パッチリした目をしてて、気が強そうな子だった。入学式の時に席が隣だったから、鮮明に覚えてる。
佳那がまた何か言うと、その子も可笑しそうに笑った。
……何故か、ちょっと複雑な気分だった。
カツンッ
何かが床に当たったような音が響いた。
「あっ」
斜め前の席の、メガネをした黒髪の女の子が、困ったように私を見ていた。右サイドに低めのポニーテールをしていて、髪は光沢を帯びてつやつやしてる。…こういうの、濡鳥って言うんだっけ?
何か落としたのは、この子かな。
身をかがめて椅子の下を探ると、そこには水色のシャーペンが落ちていた。
「これ、あなたの?」
私が聞くと、女の子は「ありがとう」と笑った。四角いメガネの奥からのぞく凛とした目が、私の姿をとらえた。
「私は、瀬城優空《ゆら》。あなたは、えっと…5番だから、如月弥優ちゃん、だわよね?」
「えっ…覚えてるの?」
私が思わず聞き返すと、優空ちゃんは首を傾げた。
「だって、クラスメートの名前でしょ?」
さも当たり前のように言われ、私はポカンとした。
この子…すごい。
「え、すげぇ、俺の名前わかる?」
瀬凪が身を乗り出して、会話に割って入ってきた。
優空ちゃんは驚いたように目をパチパチと瞬かせて、
「瀬凪希壱くん、だわよね。新入生代表の!」
と、目を輝かせた。
「新入生代表って、すごいわよね!」
「お、おう…?」
瀬凪も驚いたようで、ちょっと身を引いた。
「優空ちゃん、そいつ性格は……」
私が小さく呟いた声も聞こえないみたい。
「本当に覚えてんだ、記憶力よすぎん?」
と言いながら、瀬凪はチラッと私を見た。
……ねぇ、瀬凪、絶対からかってる!