惚れたら負け─お前のこと好きになった─
あえて、一ノ瀬くんの名前は出さない。
そうすればきっと大丈夫。


「誰?他のやつって。」


…そうなりますよね…。そりゃあ他の人なんて隠した言い方をしたら気になりますよね…。


「い、ちのせ…くっん。」


「は?ごめん、聞こえない。」


頑張って言ったのに…それなのに…私の、頑張って言った言葉を聞き取ってくれなかった…。


やけくそになった私は、グッと一ノ瀬くんの耳元に顔を近づけた。今度こそ聞こえるようにと。


「だから……一ノ瀬くんのことばっかり考えちゃってたの…。」


一ノ瀬くんの顔を見るのが怖くて、目を閉じたまま顔を離す。


と…唸るような声が聞こえた。


「あぁぁぁ…ほんと、なに…。」
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